ところで、国債残高問題が解決して物価が安定すれば日本経済に問題がないとか言えば、それは違う。国債価格の暴落が引き金となって大恐慌が起きるのを回避できたとしても、依然として日本には貧富の差が存在するのだ。二章二節で述べたように、能力の差からくる貧富の差は致し方ないが、その差が人の潜在的な能力が顕在化するのを妨げないような適切な範囲に収まっているのが社会的に望ましいと私は思う。
グラフ10(注20)
グラフ10を見て分かる通り、最頻値が300万~400万円、中央値が427万円、平均値が538万円となっていて、全体の61.2%が平均所得以下である。この61.2%という数字をどうみるかが重要である。本論文では詳しくは論じないが、この数値を社会的にあるべき数値よりも大きいと考えるのならば、全銀行国有化政策によって一体となった政府と銀行は、公共事業をどの分野で重点的に行うか、所得税をどのような比率の累進課税にするか、貨幣発行権の活用と貸し付けをどのぐらいの割合に保つか、など様々な方面から所得分布の調整が行える。金融を可能な限り制御できる政府は貧富の差の縮小にも最大の力を発揮すると思うので、この分野の今後の更なる研究が期待される。